HPトップへ

サイレント・フェスティバルトップへ

前のページへ

次のページへ


八日目
(3)
放課後の決着



 ・旨美ちゃんがかわいーっ!!
 ・妹にしたい
 ・とりあえず短パンでもはかせたい
 ・「お姉ちゃん」と呼んで欲しい。”ちゃん”が重要。
 ・むしろ「お姉さま」と読んでもらうのはどうか
 ・俺は「兄様」と呼んで欲しい
 ・そろそろこの娘の公共物破壊を取り締まる校則をつくってください
  あれを事故と言うことで処理するのはやめてくださいマジで

「……こいつもけっこう人気あったんだな」
「まあ、”期間中”というのもあるだろうね」

 周りに聞こえないよう小さく抑えた俺の言葉に、傍らに立つ同じく小声で橘が答える。その服の下からは包帯が見え隠れていているものの、その口調はしっかりしている。ほんの数時間前に旨美にボコボコにされたのに大したものである。まああれだけ豪快に殴られたので俺のほうもすっきりして橘にたいするわだかまりは全くなくなっていた。
 俺達が居るのは、放課後の図書室。
 試験前と言うことで図書館は人が多く、押さえられたざわめきに包まれている。高校にしては広い図書室の一角には、蔵書を検索するための端末があり、俺と橘はその端末を利用してサイレント・フェスティバルの途中経過を確認していた。
 今、ウインドウには旨美のデータが表示されている。昼休みの一件で、旨美が女生徒から歓声を受けていたのが気になって見ているのだった。
 
「期間中?」

 俺が聞きとがめると、橘は肩をすくめる。

「今はお祭りだからね。いつもとは違う。みんないつも以上に女の子に注目するから、いろいろと動きが出る。……面 旨美(おもて むねみ)はもともと活発で目立つし、外見も悪くない。と言うより、かなりかわいい部類に入るからね。当然の結果だろう。ボーイッシュだから女性票を集めるのも無理はない」

 確かに、旨美はまずまず票を伸ばしているし、投票の際に記入が可能となるコメントもおおむね好意的だった。……ちらほらとミスコンのコメントとは思えないものが混じっているのがあいつらしいと言えばらしいのかもしれないが。
 
「そういう時期だから、うまくやれば短期間で大きな効果を出すことも出来る」

 言いつつ、橘はマウスを操作し、ウインドウを切り替える。そこには……

「……本当に優勝を狙うことが出来そうだな」
「そうでなくては困るよ」

 感嘆する俺に、苦笑する橘。
 切り替えられたウインドウには、光音の成績を示すページが表示されていた。先週見たときから大幅に票を伸ばしている。上位グループと言ってもいい位置だ。
 コメントをちらりと拾い読みする。


 ・小さくてかわいい
 ・またメイド服を着てくれまいか
 ・むしろメイドなってはくれないだろうか
 ・なんだか家庭的で良い
 ・髪が綺麗


 
 数は多く、そしてその内容はどれも光音を賞賛するものだった。
 なによりメイド服に関するものが多い。やはりアレは……インパクトがあったのだろう。
 
「あのメイド服の効果は大きかった。その後も安定して票を伸ばしている」

 橘は淡々と分析する。

「あの腕時計のおかげもあるかな?」
「どうだろうね? 実際の効果は僕もわからないよ。でも現状を見る限り、少なくともマイナスには働いていないようだ」
「……大ざっぱなようでけっこう慎重なんだな」
「慎重と言うより真剣なんだよ、僕は。それに、時間もあまりないしね」
「時間、か」

 俺の呟きに橘はさらに声をひそめる。

「僕の予想では週末辺りが投票日だと思う」
「そんなに近いのか?」
「たぶんね。風紀委員の活動も活発だし、それより遅くなると夏休みに入ってしまう。多分、まず間違いない」
 言いつつ、橘はサイレント・フェスティバルに関するページを閉じていく。ログアウトする際、光音に投票することも忘れない。

「確認はこのくらいでいいだろう。そろそろ行こう」
「ところで橘。……学校内であんなに堂々とあのページを見ても大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。協力してくれているハッキング行為研究同好会は優秀だからね。ダミーページが目くらましになってるから、これで足が付くことは無いよ」
「そんな同好会があるのか……」
「もっとも風紀委員側のネット犯罪撲滅研究同好会も優秀だから、あまり油断は出来ないけどね……」

 ……どうもうちの学校の同好会はなんでもありらしい。
 そして俺と橘は端末を元の「蔵書検索画面」に戻すと、図書館を出る。そのまま昇降口へと向かうべく、廊下を歩む。
 
「そう言えば……お前の言っていた”最後の一押し”……どうするんだ?」

 歩きながら、橘に問いかける。
 橘は言っていた。腕時計によって注目を程良く集めるのはあくまで布石。最後に一気に票を集める作戦に出る、と。今後について、俺はなにも聞かされていない。橘は、いつも先まで考えているわりには俺には直前まで情報を明かさないクセがある。クセ、というか意図的にやっているようにも思えるのだが。
 
「それについてはいくつか考えているが……なかなか決まらなくてね……」

 ガランガラン
 
 と、妙な金属音に会話を遮られる。
 音のした方……二階へと続く階段の影。
 暗がりの前に一人の女生徒が立っていた。
 長身だ。170近くはあるかというスラリとした姿態。長い髪をポニーテールにまとめた、ちょっと目を引く綺麗な女の子だった。
 しかし、今一番目を引くのはその首に付けたものだった。
 黄色くてまるい金属。そしてガラガラと言う音。
 特大の鈴だった。ちょうど神社の賽銭箱の近くにぶら下がっているようなでかい鈴。あそこまででかいと鈴と言うより鐘と言った方がいいようにも思えるが、それでも鈴だと思ってしまうのはそのデザインゆえだった。
 赤いリボンに黄色くて丸い鈴のデザインは、ちょうど猫の首につける鈴とそっくり同じデザインなのだ。
 その女生徒は手を大きく振り上げると、
 
「たぶんここぉっ!」

 階段裏にあるロッカーを思い切り開いた。
 そこには掃除用のモップやらほうきやらしか入っていないはずで……やっぱり、勢いよく開いてもそんなものしかない。
 やな感じの沈黙が降りる。
 しかしその女生徒はそんなことは気にせず、すぐに手を振り上げると、
 
「と見せかけてたぶんこのへんっ!!」

 そう言って、今度は階段下の暗闇に手を突っ込んだ。
 そして、手を引く。
 
 ズルリ
 
 そんな音をたてて引きずり出されたのは、人の形をした闇だった。
 
「きゃあああああっ!?」

 通りすがりの女生徒が悲鳴を上げる。
 下校時間をやや外れ、人通りはそれほど多くはない。しかしそれでも何人かは廊下を歩いており、みな一様に目の前の異様な光景に目を奪われていた。
 しかし渦中の女生徒はそんなことは気に掛からぬように、引きずり出した闇の襟首(?)をつかみまくし立てる。
 
「山岸ぃっ!! あんたよくもあたしにこんなものつけてくれたわねぇっ!?」
「やあ。よく僕のいる場所がわかったね、祥子」

 闇が口をきいた。……と言うか、そいつはただ単に夏だというのに真っ黒なガクランに身を包んだ男子生徒だった。ただ、引きずり出されたときはそうは見えなかった。何というか、人の気配を感じられなかった。

「諜報活動研究同好会の山岸だな……」
 
 橘の呟き。そうだ、どこかできいたことがある名だと思ったら……昨日図書館の天井から現れたヤツだ。なんか変なところからばかり現れるヤツだ。
 突然の異常な出来事に呆然とする周りをよそに、山岸と女生徒は話を続ける。
 
「これもやっぱり愛のチカラかな?」
「なにが愛よっ! バカじゃないのっ!? それよりあたしの首に鈴なんてつけるなんてどういう了見よっ!?」
「似合うと思った。君がもっとかわいくなると確信した。そしてそれは……間違いじゃなかった」

 山岸は、わずかな冗談もなく真剣な顔と声で言い切った。
 その言葉に、祥子と呼ばれた女生徒は一瞬鼻白む。その頬が、見る見るうちに紅く染まる。それは怒りゆえか、それとも照れているのか。
 そして、山岸の言葉は続く。
 
「だいたい授業中に居眠りする祥子が悪い。あんなかわいい寝顔を見せられたら、だれだってイタズラしたくなる」
「なっ……なに言ってるのよっ! だからって鍵のついた首輪なんてつける、普通っ!? しかも『夕方五時までに見つけることが出来たら外す。もし見つけられなかったら外す代わりに言うことを一つ聞くこと』……なぁんて人のこと脅すなんてあんた何様ぁっ!?」

 叫びつつがくがくと山岸を揺する。見れば、背の高い祥子に比べて山岸の背はかなり低い。襟首を掴まれた山岸は足が床に着いていなかったりする。……大した腕力だ。

「さああ、見つけたんだからとっと外せ今すぐ外せそして殴らせろぉっ!!」

 さらにガクガクと揺する。なんか見てて不安になるぐらいの激しさだ。山岸の首もそれこそ壊れたおもちゃのようにガックンガックン揺れる。その激しさは首の骨が外れてしまったんじゃないかと不安になるほどだった。
 
「それはダメなんだよ、祥子」

 激しく揺すられているのに、ひどく静かな山岸の声。同時に、
 
 キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン

 最終下校を促す5時の鐘が鳴る。いぶかしげに祥子は山岸を揺するのをやめ、そして手の中の山岸の顔をのぞき込み……顔を、引きつらせた。
 
 ガチャリ
 
 そんな音を立て、先ほど祥子の開けたロッカーの奥(そんなスペースはないはずなんだが)から現れたのは……。
 
「山岸……?」
「祥子、それは人形なんだ」

 呆然とする祥子の呟きに平然と応える山岸。
 祥子は、がっくりとうなだれ、手の中の山岸……いや、人形を落とす。少し前まで人間に見えていたそれは、ガシャリと音を立て床に落ちた。そのさまは確かに人形以外の何者でもなかった。
 
「そういうわけで、僕の勝ちだ」
「あっ……あんたはぁっ! こんなのアリなのっ……!?」

 怒りに震える祥子。見下ろされる山岸は、しかし涼しい顔だ。
 
「さて、残念だけど祥子が嫌ならとりあえずその鈴は外してあげよう。……ほら、かがんで」
「う〜」

 不満げにうめきつつ、それでもとにかくこの鈴を外さなくては始まらない――そう考えたのか、意外に素直に祥子は身をかがめた。
 背の低い山岸はややつま先立ちになって、抱きつくように首の後ろに手を回す。そして、かちゃかちゃと首輪の鍵を外し始めた。
 
「わ、わたしはあんたの言うことなんか何一つ聞かないんだから……!」
「うん。祥子はそう言うと思ってたよ。だから”強引にもらう”ことにする」
「え?」

 言うが早いか。
 山岸は首輪の鍵を外す手でそのまま祥子の首を掴み、引き、祥子の額に……口づけした。
 瞬間、弾かれたように祥子は山岸を突き飛ばし離れた。
 かなり強く突き飛ばされたのに、転ぶこともなく立つ山岸。
 両手を額に当て、震える祥子。
 
「あああああああああっ……」
「さすがに唇はむりだったか……祥子はテレ屋さんだな」
「山岸ぃぃぃぃぃっ!!!」

 音もなく、山岸は走り去る。凄まじい速さだ。
 
 ズドドドドドドドッ!
 
 豪快な音を立て祥子は山岸の後を追う。山岸に劣らぬ凄まじい速さだった。
 こうして、騒動は走り去っていった。
 
「……なんだったんだ、今のは……」

 俺は呆然と呟いた。あまりの事に、思わず傍観者モードに入っていた。
 周りには、7、8人の生徒。みんな同じようにたった今目の前で起きた出来事にどうしていいか分からず呆然と立ちつくしていた。
 いや、一人だけ例外がいた。
 
「女生徒の方は結城 祥子(ゆうき しょうこ)。男の方は諜報活動研究同好会の山岸だ。結城祥子は最近票を伸ばしていると警戒していたが……。あんな大物が関与していたのか。手強いな」

 俺だけに聞こえる大きさの声で、橘が囁く。その声は全く動揺が感じられない。平静そのものだった。
 
「さて、さっきの話の続きだが」

 驚きに答えることも出来ない俺に、橘は話し続ける。

「我々もそろそろ川波光音をめだたせるべく活動しなければならない。……ちょうど、今みたいな感じで」
「できるかぁっ!!」

 俺は、思わずそう叫び返していた。

前のページへ

次のページへ

HPトップへ

サイレント・フェスティバルトップへ