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八日目
(1)
朝から連続技


 ドカッ!
 ガッ! ドガッ! バキッ!
 
 ピキーン

 ズガトガガガガガドカカカカカッ!
 ドッゴォォォォン!


「け、KOっ!?」

 なんだかやたらと景気のいい音に目が覚まる。
 
 スチャ
 
 そこにはいつものように、おたまとフライパンを構える幼なじみの姿があった。
 服装はセーラー服の上にエプロン。戦いには向かない服装だ。が、その構えにすきは無い。
 
 バッ!
 
 タオルケットを跳ね除け華麗に立ち上がると、俺は構えを取る。……戦うための、構えを。
 
「……なに?」

 眉をひそめ、怪訝そうに光音は問い掛けてくる。
 
「いや、なんて言うか……」

 素で訊ねられ、答えに詰まる。
 なにかがおかしい。おかしいことがあるときは、まず現状を把握するべきだ。
 目の前の同い年の幼なじみ。が、背が低く出るとこも出ていない平坦な身体はほとんど中学生、ヘタをすると小学生のように見える。そんな幼なじみがセーラー服に身を包みその上にエプロンを装着。しかも朝昼晩と飯を作ってくれる。
 思えばすごい状況だ。
 
 ……って違う。今考えるべきことはそういうことじゃない。
 
 相手は小柄とはいえフライパンとおたまで武装し、隙のない構えをとっている。対する俺は寝起きで頭がしゃんとせず、しかもベッドの上で足場が悪い。
 隙を見せれば、やられる……!

 ……ってそれはそれでなんか考えるべきポイントがずれてきいるような気がする。

 なにかおかしいような気がする。
 迷い。混乱。なんだかボーッとするし。しかし、その中に何かしら確信があった。
 
「俺は、戦いの空気を感じたんだ」

 ぐっとこぶしを握りこむと、それと共にぶわりと何かが身体から染み出す。
 戦いの意志そのものの、濃密な空気。
 恐らくはこれは、あえて言葉にするなら”闘気”とでも言うべきものだろう。
 それに押されるように、一歩後ずさり間合いを取る光音。俺は引く動きに合わせすり足で一歩踏み出し……ベッドの縁から足を踏み外した。
 
 ボフッ
 
 バランスを崩し、それでも床に転ぶのは避けベッドの上へとすっ転ぶ。
 ベッドの上に大の字に寝転ぶ。
 光音はそんな俺を見て、ため息ひとつ。
 そして左手の時計――あの、プレゼントした時計だ――に目を向けると、
 
「時間、あんまりない」

 なんだか冷たい一言を放つ。その言葉とベッドに倒れた衝撃とでようやく頭がはっきりしてくる。
 えーと、俺は寝ぼけたんだろうか?
 今やったことを思い出す。
 立ち上がって構えて一歩踏み出してすっころんだ。
 ……反論のしようもないくらい完膚無きまでにねぼけたらしい。
 光音はくるりと部屋の外へと向きを変えると、
 
「冷めるから、早く」

 その一言を残し、歩き出す。
 
「なあ、光音……」

 呼びかけると、光音は足を止めた。
 ひどく情けない状況だ。できれば光音には一秒でも早く立ち去ってもらいたい。
 しかし……どうしても聞くべきことがあった。
 
「?」
「なんか、俺が目を覚ます前に連続技を決めなかったか?」

 俺は、目覚めの記憶を掘り起こしながらつぶやいた。
 たしかに、とんでもない音が――最近いつものことという感じになりつつあるが――聞こえたのだ。
 
「え?」
「連続技の後で超がつくような必殺技が炸裂したような気がするんだ」
「なんのこと?」
「しかもキャンセルかかってたような……」
「早く目を覚まして」

 ため息混じりの言葉を残し、光音はそのまま行ってしまった。
 トントンという階段の音を聞きながら、俺は考える。
 
「いつも思うが……フライパンとおたまで、どーやって?」

 考えてもどうしようもない気もしたが、思わず首をひねってしまう俺だった。
 

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