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「起立!」
「礼!」
・
・
・
「さて、これで今日の授業も終了か……」
「……おーい、坂上ー」
「ん? サツキか」
「坂上、こっちこっち……」
「ああ、なんだサツキ。どうして入ってこない?」
「そう言いつつも来てくれるんだな」
「……自覚しろ。教室の出入り口でそんな風に手招きなどしていれば、目立つ。
呼ばれれば来るほかない」
「そ、そうか。それはしまった。目立たないようにしたつもりだったのだが……」
「なぜ今さらそんなことを気にする?」
「ああ……昼休みのこと、ナズナに――友人に話したら、たしなめられた。
昼休みの時のように目立つ登場をしたら、君に迷惑がかかってしまう、と」
「なるほど。それで今までとはひと味違う目立ち方をして、
俺にさらなる迷惑をかけようという算段かっ……!」
「そ、そうじゃないっ! 私は……」
「気にするな」
「なるべく目立たないよう、こうして教室の外で待って……って、え?」
「気にするな、と言った。お前は黙っていても目立つんだ。気にしても仕方ない」
「そ、そうか……。私は、そんなにダメな女なのか。
黙っていても目立ってしまうような、みっともない女なのか……」
「勘違いするな。お前は、悪い意味ではなくいい意味で目立つ」
「え?」
「お前のようなすばらしい女の子、他になかなかいるものではない。
ゆえに、目立つ」
「さ、坂上!?」
「これは誇っていいことだ」
「君が私のことをそんな風に褒めてくれるなんて……」
「当然だ。その胸に象徴されるお前の慎ましさは、
現代の日本において得難いものだ。素晴らしい!」
「そ、そうだろうか……って、胸!?」
「胸だ」
「また胸の話なのかっ!!」
「いや、慎ましさの話だ」
「でも胸の話だろうっ!?」
「慎ましいからな」
「………!」
「ほら、帰るぞ」
「え、あ、待て 坂上! 置いていかないで欲しいっ!」
さつばつサツキさん
第六話「バカなことを言うものだな」
「……サツキ、今日は一日いろいろとあったな」
「そうだな……」
「一言で感想を言ってみろ」
「最高だ」
「……ほう?」
「ああそうだとも、今日は最高の一日だった。君と朝を共にできた。
昼食も共に摂った。君と多くの時間を共有することができた。
そして今、こうして帰りも共にしている。すばらしいことだ」
「鼻血も吹いたしな」
「う……それは忘れて欲しい」
「忘れない。絶対に忘れない。死んでも忘れないだろう。
来世でも覚えているかも知れない。それぐらいのインパクトはあった」
「……君はイジワルだ」
「そうか?」
「ああ、とってもイジワルだ……!」
「そうか。なら……。
こんな俺は、嫌いか?」
「む……その聞き方は、ズルい」
「そうか?」
「そうだ。そんな聞かれ方をされたら……
君のことを、嫌いなんて言えるわけがないじゃないか……」
「では、聞き方を変えよう。俺のことは好きか?」
「!」
「これも、答えられないのか?」
「……いや、そんなことはない」
「なら、聞かせて欲しい」
「!」
「………」
「……す、好きだ」
「そうか……つまり、サツキ。お前はイジワルな俺が好きなわけだな」
「む、むう。不本意だがそういうことになってしまうな」
「すなわち、イジワルされるのが好き、と」
「いや、そういう意味ではっ……!」
「つまりお前はMなんだな」
「え、エムってなんのことだ?」
「ならば俺はSになろう」
「君は何の話をしているんだ!?」
「だから、SMの話だ」
「………」
「………」
「き、き、君はどうしてそう女の子相手にサラッと遠慮も容赦もなく
ヒワイなことを言うんだっ!?」
「どうして、だと? 決まっている」
「?」
「そういうことが大好きだからだ!!」
「どっ……どうして躊躇いもなくそんなことを言えるんだ!?」
「躊躇う理由などない。自分の信念を語るとき、なにを物怖じする必要がある?
恥じることはない。迷うことはない。ただ、力強く言葉にするだけだ」
「そ、そうか。その男らしさはとても素敵だと思うのだが……その内容が……」
「内容が?」
「いや、内容自体も男らしいと言えばこれ以上ないくらい男らしい、のか……?
あ、でもそうするとっ!」
「なんだサツキ、急に距離を置いて?」
「いや、その……」
「なんだ、と俺は聞いた。答えろ」
「……気を悪くしないで欲しい。
思わず、君に対して失礼なことを考えてしまったのだ」
「どんなことだ?」
「わ、私の身体だけが目当てなのではないか、と……」
「………」
「………」
「ふざけるな!」
「!」
「お前もバカなことを言うものだな。
身体だけ? そんなことがあるわけがないだろう」
「そうだな……すまなかった。君をこんな事で疑ってしまうなんて……。
それに、ふふっ……そもそも胸の控えめな私では、君のそうした興味を
惹くことができるはずもなかったな……」
「お前は何を勘違いしている。お前の身体だって目当てだ」
「!? で、でもたった今それは否定したばかりじゃないか!」
「お前は『身体だけ』が目当てと言ったじゃないか。
そうじゃない。
俺はお前の『身体だけ』ではなく、魂も目当てだ」
「……はい?」
「身体だけあってもしかたない。魂があればこそ、エロい」
「すまない、坂上。意味が分からない」
「ならば説明してやろう。
たとえばここに、エロくてエロくて仕方ないグラビアがあったとする」
「あったとするって……本当に取り出しているじゃないかっ!?」
「どうだ? エロいだろう?」
「あ、ああ。女の私でも直視するのをためらうほどだ……
なんてことだ、おっぱいにも程がある……!」
「そうだな。しかし、このグラビアがエロく見えるのはそれだけじゃない」
「おっぱいだけじゃない……?」
「これが素晴らしいグラビアだからだ」
「!?」
「グラビア一枚撮影するのに、どれだけの手間がかかると思う?
プロのカメラマンがセットを整え、時には人員も自分で揃えることがあるだろう。
ロケに行くなら、スケジュールを計画しなくてはならない。
そうした準備の上でアイドルの気分を盛り上げ、自分の技術を駆使して撮影する。
真剣に、妥協なく、全力で、だ」
「……!」
「そしてアイドルもまた必死だ。自分の魅力を最大限に見せなくてはならない。
この世界は運やスタイルだけで成り上がれるほど甘くぬるい世界ではない。
カメラマンの指示に従い、気持ちを盛り上げ、そして自分の魅力を
最大限に発揮しようと全力を尽くす。それも、笑顔のままで、だ」
「そこまで真剣なものなのか……」
「どちらもプロであり、どちらのなすこともプロの仕事だ。
それが、このたった一枚のグラビアをこうまでエロくする。
もちろん、アイドルのスタイルが優れていることも必要だろう。
だが、それだけではこのレベルには達しない」
「そこまで……」
「ああそうだともサツキ。そして覚えておけ。
世界を決定するのは人の意志だ。それを紡ぎ出す人の魂だ。
エロマンガがエロいのも、エロ小説がエロいのも、エロイラストがエロいのも、
そしてこのグラビアがエロいのも……!
そこに『エロくあれ』という人の意志があり、魂が込められているからだ!
魂なきところにエロはない!
俺はただ、記号だけに反応するわけではない。
そこにある魂に共感し、エロを見いだすのだ……!」
「……!」
「だからサツキ。俺はお前の全てが欲しい」
「えっ……!?」
「お前の全てを、俺にくれ……!」
「ああ、坂上……」
「サツキ……」
「……坂上……その言葉、本当なら嬉しくてたまらないはずなのに……
ああ、素直に喜ぶことができない……」
「なぜだ?」
「いや……なんて言うか……どう言えばいいのか……
なにからつっこめばいいのかも、私にはよくわからないんだ……」
「それはつまり……俺の言うことがよくわからない、ということか?」
「そういうことになる、な……」
「それはおかしい。俺が言ったこと……お前は、できていたじゃないか」
「え?」
「告白したときのお前は、すごくかわいかった」
「え? え?」
「赤く染まる頬、濡れて不安に揺れる瞳。祈るような真摯で清らかなその姿。
恋する女の子というものは、なぜああも魅力的なのだろうな……」
「な、な、なにを突然……!」
「そこには意志があった。俺を好きだという、気持ちが。
そこには魂があった。躊躇いながらも真っ直ぐで、綺麗な魂が。
俺はそれ感じ、そして共感した。だからお前の告白を受けたんだ」
「坂上……」
「サツキ……」
「坂上……!」
「……というところで家に着いてしまったわけだが」
「はっ!? 本当だっ!?」
「時間が経つのは早いな」
「それより君は、自分の家のご近所であんな話をしたり
グラビアを広げたりしていたというのか……!?」
「そういうことになるな」
「君はやはりすごい。恐るべき人だ……!」
「さて、今日はひとまずお別れだ」
「そうだな……」
「残念そうだな。ならいっそのこと、泊まっていくか?」
「そ、そ、そ! それはちょっと早すぎるのではないかと思うぞっ!?」
「冗談だ。明日も朝から来るのか?」
「ああ、差し支えなければそうしようと思う」
「そうか……」
「そうだ……」
「じゃあな、サツキ」
「ああ、坂上……また、明日!」
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