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紅の隻眼

プロローグ


  俺は今、金に困っていた。
 それは、前に受けた仕事のためだ。

 冒険者ギルドで紹介されたその仕事は、ゴブリンにさらわれた村長の娘を助けるという、まあありがちな内容だった。
 ギルドで斡旋された魔術師と盗賊を連れ、洞窟へ向かった。この種の仕事にしては人数が少なかった。前線で戦えるヤツがもう一人は欲しいところだし、ましてその魔術師も盗賊も、実戦経験の浅い素人だった。
 だが、今は太平の世。しかも向かう先は、村の近くにあるにも関わらず騎士団に看過されている洞窟である。ほとんどのモンスターを俺一人で倒し、大した苦労もなく村長の娘とやらを助け出すことは出来た。
 が、問題はその後だ。
 実際助け出したのは村長の娘ではなくただの村娘。要は身代わりだ。騎士団に救出依頼を出しても最低で一週間はかかる。それでは間に合わない。そして村には金がなかった。
 かくて冒険者ギルドに安値でしかも緊急の依頼が来る。その結果があのアンバランスなパーティだった。救出の依頼も、最悪失敗しても構わず、村としては「助けようとした」という事実があれば良かったようだ。
 助け出した村娘にはたいそう感謝されたが、しかし胸くその悪くなる仕事だった。
 
 嫌なことはパーッと騒いで忘れるに限る。

 俺は依頼金をパーッと使い……気が付くと、手元にほとんど金が残っていないことに気がついた。


「……ってわけで金がない。手っ取り早く食いぶちにありつける仕事はないか?」
「おぬしは……」
 やや薄暗い、冒険者ギルド支部の中。歴史があるともただ古びているとも言える微妙な色合いの木造の窓口。受付の爺さんはため息混じりに応えた。
 ブツブツと文句を言いながら、依頼の書かれた台帳をめくる。
「……おぬしは戦士としては優秀で稼ぎも悪くない。じゃのに、どうしてこう、いつもいつも金に困ったと言って仕事を探しに来るんじゃ?」
「金がありゃ来る必要なんて無いだろ?」
「……ためろ。お前のランクなら、ギルドにあずければいい利率で貯金できるぞ」
「まあ、そういう話は金のあるときにしてくれ……で、どんなのがある?」
「最近はこれといってのう……お、これなんかどうじゃ?」
「なになに……『ネコを探してください』? 俺向きの仕事じゃないな」
「じゃ、こっち」
「ん? 『ネズミ退治お願いします』……おいおい、駆け出しの冒険者じゃあるまいし」
「じゃあこれなんかどうじゃ?」
「『ドブさらい』……。 爺さん、俺をからかってるのか?」
「仕方ないじゃろう。最近特に事件もないからのじゃからな。どうしてもと言うなら、最近魔物が増え始めているという北の方にでも行ってみたらどうじゃ?」
「旅に出る金もねぇよ……本当に他には何も仕事ないのか?」
「あとは……ちょっと怪しいんじゃがこれじゃな」
「『魔導師の助手』? って俺は魔法使えないし関係ないんじゃないのか?」
「よく見ろ」
 その言葉に促され目をやると依頼の条件が目に入った。
 『剣を扱えるもの、戦闘に長けた者』
 そう、書かれていた。魔法を扱えるかどうか、そう言った制約はない。
「俺向き……ではあるな」
「じゃが……」
 そう。『魔導師が戦士を欲しがる』という場合、大抵はろくな事がない。魔導師はその多くが『知恵と知識で魔法を扱っている』という自負を持っており、自分の肉体で闘う戦士を軽んじて見る。だからこういった依頼は、人を人とも扱わないひどいものが多い。ましてこの依頼書には依頼者の名前が書かれておらず、怪しいことこ
の上ない。が……。
「受けるぜ」
 俺はそう答えていた。
「いいのか?」
「まあ、あんまりひどい条件だったら断ってくるさ」
 不安要素はあるが、払いは悪くない。もし本当にひどい依頼だったら……そのときは、ドブさらいでもネコ探しでもやることにしよう。
 かくして俺は、人里離れた魔導師の住まいへ向かうことになったのだった。

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