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黒髪の狂獣機外伝 | ||
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プロローグ | 「何してるんですかっ!」 小さな町の路地の一角。大通りを外れ人通りのないそこに、威勢のいい声が響き渡った。 済んだその声は少女のものだった。 勝ち気そうな瞳。まだ幼さが強いが、整った顔立ちだ。13、4歳ほどの、美しい娘だった。しかし今はその眉を逆八の字にして怒りをあらわにしている。 真っ直ぐな、腰まで届く髪は鮮やかな紅。春の日射しに透き通るような、美しい紅だった。 声を浴びせかけられた少年は、気圧されたように後ずさった。 「な、なんだよぉ……」 「”なんだよ”じゃないでしょ! よってたかってそんな小さい子をいじめてっ!」 少女の指さす先には、小さな女の子がうずくまっていた。かすかに震え、静かに……泣いている。 その女の子を取り囲むように立つ、三人の少年。その中の一人、一際背の高い少年が、少女の真っ向からの批判を浴びていた。年は少女とそう変わらない。しかし今は完全に少女に気圧されていた。 「ちょっと押したら転んだだけで……」 背の高い少年は、気まずそうにちらちらとうずくまる女の子を見ながら口ごもる。 少女は、そんな少年を高いところから見下ろすように真っ直ぐ見る。肩にかかる髪をばっと片手で振り払い、言葉を続けた。 「女の子に乱暴してそんなことしか言えないんですか、あなたは? 情けないにも程がありますね」 「こいつが悪いんだぜ、俺のことを笑うから……」 「どんな理由があろうと、女の子を泣かせておいて謝ることも出来ないなんてクズですよクズっ!」 少女のあまりの言葉に、少年は鼻白む。 「この……おとなしくしてればいい気になりやがって!」 言いつつ、ぐいっと二の腕まで服の袖をめくる。 対して少女は……。 「へえ……ジェフ、私とケンカするつもりですか?」 余裕の表情で、片手を上げる。ほっそりとした、白い指。水仕事でもしているのか、すこし荒れているものの、綺麗な指だ。 その手に、火がともる。 いや、火ではない。蒼く揺らめき、少女の手にまとわりつくそれは熱を発しない。 この世界のものであれば火と同じくらいなじみのあるもの。 それは、魔力と呼ばれるものだった。 その揺らめく魔力の光を見るや、ジェフと呼ばれた背の高い少年は後ずさる。 「わたしはべつにかまいませんよ」 言いつつ一歩、少女が踏み出す。すると少年達は弾かれるように飛び上がり、一目散に逃げ出した。 「くそう、覚えてろ!」 「ブスっ!」 「魔物女っ!」 口々にののしりながら、少年達は一目散に逃げ出した。 その様を見ながら少女はため息を吐く。 「まったく……仕方のない人達です……」 呟き、手を一振りする。まとわりついていた魔力の光は、まるでマッチの炎のように消えていた。 ふと、女の子の方を見やる。まだうずくまっていた。 「もう大丈夫ですよ。ほら」 少女は優しく語りかけ、手をさしのべた。 女の子は、その手を見て、しかしそれに触れず自分で立ち上がる。 「ありがとうね、お姉ちゃん」 そう言い、手を振りながら元気にかけていった。 少女――ルーネも手を振り返し、その姿を見送り……そして、俯いた。 俯いた視線の先には先ほど魔力をまとわりつかせた手がある。女の子にさしのべた手がある。 ルーネの心の動きに答えたのか、その手には再び魔力の燐光がまとわりつきはじめていた。 蒼い、魔力の光が。 見つめながら、その手をぐっと握った。 まるで何かを、握りつぶすかのように。 続く |
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