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黒髪の狂獣機 | ||
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エピローグ | 「……さて、この部屋ともお別れか」 思っていた以上に長く滞在することになってしまい、なんだか愛着の湧いてきた宿の一室を眺めながら、ラルフは呟いた。 「ラルフーっ!」 声と同時に、乱暴に扉が開かれる。 飛び込んできたのは黒髪に白い服の少女――フィーだ。 その長い黒髪はツインテールにわけられている。 「こういう妹っぽい女の子はこういう髪型が基本です」 というよくわからないルーネのこだわりのもと、しばらくの間この髪型がフィーの”髪”の封印の形となっていた。 (まあ、しばらくしたらまた別の髪型を試すんだろうけどな……) 胸中で呟きつつ、ラルフはフィーの方に目をやる。 フィーの身を包むのは白い戦闘着。端は赤い線で縁取られている。この一見ただの飾りに見える線は、実は魔法の紋章となっておりこの戦闘着に見た目よりずっと高い防御力を持たせている。 性能自体は文句ない。しかしラルフは実用性を考え、色は白以外がいいと主張したのだが、 「白くて汚れやすくても、水の攻撃魔法をガンガンぶつけてちゃっちゃと洗えるのでオッケーです」 というルーネの主張に押されて白と決まった。「白は目立ち過ぎる」という理由で反対していたはずだが、押し切られた。 ちなみに、この戦闘服はオーダーメイドである。特殊な戦闘着……それもフィーの体格に合うものなど市販品にはない。 ……高かった。財政がピンチになるぐらい高かった。 「ルーネが”時間に正確じゃないとなにかと損をします。なにより信頼を失います。フィーはああなっちゃいけませんよ”って怒ってるよ〜。早く行こうよ〜」 なんだか最近尻に敷かれているような気がする。ラルフはため息を吐き、もうまとめ終えた荷物を持ち上げる。 「わかったわかった。今行く」 ラルフは立ち上がった。 ・ ・ ・ 「……だいぶ復旧してきましたね」 いつもの冒険服と籠手のような手袋をはめた、赤毛の少女――ルーネは呟いた。 リンドの街の、表通りのひとつ。 ルーネの視線の先には、”導きの塔”がある。最上階は外観はほぼ出来上がっている。まだ、足場の木が組まれているが、それが外されるのも間もなくだろう。 あれから二週間。 街に戻ってまずフィーが望んだのは、休息ではなく”導きの塔”の修復を手伝うことだった。 今回のことを少しでも償いたいというのだった。 さすがに事の原因が自分であると自首することはやめさせたが、それぐらいならいいだろうと手伝うこととなった。 幸い”紅の導宝珠”は無事であり、また騒ぎの中心がすぐに街の外に移ったため”導きの塔”以外に目立った損害はなかった。修復は街の有志を募り滞りなく行われ、それももう仕上げの段階となった。あとはプロの大工の仕事だ。 が、街を出ようとしても先立つものがなかった。そんな折り、商隊が護衛を求めており、渡りに船ということでその仕事を受けた。 その出発日が今日だったのだった。 ルーネの言葉を受け、フィーも”導きの塔”を見上げる。 「……さようなら」 そう、小さな声で呟く。 フィーが導きの塔で見たもの――それは未来ではなくラングスの残したメッセージだった。 「お前のことを待つつもりだったが、俺の生きている間に来るとは限らない。悪いが待ちきれない。お前が来ても迷わないよう、この”導きの導宝珠”をおいた。先に”世界の果て”で待っている。お前は、追ってこい」 そんなメッセージだった。 ぞんざいな内容だった。ラングスがもういないと言うことはフィーを一時は絶望させたが、今はラングスの言葉がフィーの目的となっていた。 ”世界の果て”を目指す。 それが、フィーの今の目標だ。 「結局”紅の導宝珠”ってのは、ラングスがフィーのために造ったものだったんだな」 「そうですね。”紅の導宝珠”は本来、ただのそこにあることを人に知らせる、灯台の明かりのような存在だったそうです」 ラルフの言葉をルーネが受ける。 「それが、どうして未来を見せるなんてことになったの?」 フィーの言葉に、ルーネは少し考え、そして答えた。 「旅をする人、街に帰る人……様々な人々の願いを受けるうちに、魔法が変質していったのでしょう。魔法は人の意志によって決まります。 そうやって出来たものですから、”未来を見せる”ということを疑う人は多いです。でも、わかるでしょう? 未来を決めるのは……」 「自分がどうしたいか、だよね」 フィーは、笑顔で答えた。 人の意志を受け、その意志に基づいた未来を見せるのが”紅の導宝珠”だった。ゆえに、その未来が実現する者もいればそうでない者もいる。そのため、当てにならないと言われている。 (じゃあ、俺が見たのはなんだったんだろう……) ラルフは思う。 ”導きの塔”に訪れたとき、ラルフに未来への意志はなかった。迷っていた。どうすればいいかわからなかった。だから、”導きの塔”に来たのだった。 そして、”紅の導宝珠”に触れ浮かんだ映像はフィーの姿だった。 長い黒髪の、大きな瞳の、美しい少女だった。 それを、守りたいと思った。 思った瞬間、古城の夕焼けで、自分がフィーと出会う瞬間が見えた。 思えば、最初に見たフィーはラングスの意志の残滓だったのかもしれない。 ”導きの塔”で垣間見たときとほとんど変わらない、傍らにいるフィーを見ながら、ラルフはぼんやりと考えた。 「……なにフィーに熱い視線を注いでいるんですか?」 ルーネの思いがけない言葉に不意をつかれ、ラルフは吹き出した。 「な、なにいってるんだお前はっ!?」 「慌ててるところを見ると怪しいですね……そう言えばラルフがフィーを見たのは、”導きの塔”だったんですよね?」 「それがどうした?」 「6年前でしたか」 「だからなんだよ!?」 ルーネはいたずらっぽい瞳でラルフを見ながら、 「ひょっとして……それが初恋だったりして」 と、楽しげに言った。それは完全にからかって楽しんでいるといった風だった。だが、ラルフはその言葉に……絶句していた。 「そのリアクション……ひょ、ひょっとして図星だったんですか?」 「そんなわけあるかっ!? あんまり馬鹿馬鹿しいことを言うから呆れていたんだっ!」 「でも何だか顔が紅く……」 「そんなわけないだろうっ!」 言うなり、歩き出す。 ルーネは慌ててその後に続く。 フィーはとてとてと駆けラルフの前に回り込み、 「ラルフぅ、どうしたの?」 と、ラルフの顔を覗き込みながら聞いた。ラルフはその様に余計に顔を紅くさせた。 さらに歩く足を速め、引き離す。 「変なのぉ」 「本当、変な人ですねぇ……」 背後から、そんな声が聞こえてきた。 これからこの二人と旅をしなくてはならない。そう考えると、ラルフは気が重くなった。 が、 「まあ、いいか」 呟き、速度をゆるめた。 二人が追いついてくる。 未来への一歩は自分一人で踏み出すしかない。 しかし未来へは、誰かと一緒に歩んだっていい。 こいつらと一緒に歩んでいくのも、まあいいだろう。 ラルフは、そんなことを考えていた。 了 |
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