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黒髪の狂獣機 | ||
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プロローグ | ただ、月だけが白く輝いていた。 秋を迎えようとし紅く染まる山の木々。しかし月の支配する今は暗闇と月明かりに照らすに任されていた。 いや、違う。 夜をして紅く染まりあがる場所があった。紅く、朱く染まりあがるそこは、秋の装いではなく紅蓮の炎によって自らの存在を主張していた。 容赦なく燃え上がる炎、火のはぜる音いくつもの音、そして舞い上がる黒煙……炎の狂乱のなか、それに紛れない一つの影があった。 10フィート(約3メートル)に達する巨大な体躯は、甲虫のようにずんぐりとした形とあいなって炎の中にありながらそれに犯されない強い存在感を放っていた。 炎を照り返す体表は、金属の黒。 見た目通りの重々しさにふさわしく、その巨体は地響きをたてて炎の中を歩んでいた。 その体の大きさに比すればひどく小さい頭部を左右にめぐらす。球形の頭部には更に小さい二つの金属球がついており、それはまるで目のようだ。首を巡らし、そして金属球を回す。その様は、あたりを見回しているようだった。 その動きが止まる。 瞬間、跳ね上げるように巨体は自らの腕を振り上げた。丸太のように太いその腕を上を水平に伸ばし、間をおかず、先端から放った。 放たれたものは光。 奔流と言っていいほどのその圧倒的な流れは燃えさかる炎も木々も飲み込みただ一直線に進む。 その光を阻むものはないように思われた。 いや。その光の前で一つの音が響いた。それはひどく胸に響く、しかしこの世のどんなものを使っても出せないと思われる”異音”だった。 その音に導かれるように、光の奔流の前に「壁」が現れる。炎と光の奔流によって照らされる中にありなお強い輝きを放つその壁は、魔法の防壁だった。 光の奔流と魔法の防壁がぶつかる。 両者の拮抗は一瞬。 次の瞬間には紙を引きちぎるように光の奔流は魔法の防壁を突き破っていた。しかし、今まで直線に進んでいた光はその衝突によって大きくその進行方向を変えていた。 光はそのまま森を走り抜け、次々と燃えさかる森の範囲を広めていった。 光の届こうとした先。そこには、人影があった。5フィート(約1.5メートル)程しかないその小柄な影は、光が通り過ぎたのを確認すると、”飛んだ”。 まさに飛んだとしか思えないほどの高い跳躍。同時に、先ほどの”異音”がいくつも響く。 そして、人影の周囲にいくつもの青白い炎が生まれた。 炎は自らの意志を持つかのごとく一斉に巨体へと向かう。 黒い巨体はその体躯に見合わぬ敏捷さで動き出す。青白い炎はかわされ、燃えさかる森に一時爆発という新たな彩りを加え、すぐにその中に飲み込まれる。 それでも、3つの炎が追いすがった。 巨体はに3つの炎が追いつくと思われ……そして唐突に炎は爆発した。巨体に触れる前に、3つの炎は全てはじけてしまった。 しかし炎の狂乱は終わらない。 次に現れたのは鳥。炎でできた巨大なその鳥は一直線に巨体へと迫る。 しかし、その炎の鳥もまた巨体に届く前に爆発してしまう。先ほどとは異なり、まるで花が開くように五つの爆発へと分解された。 そして巨体は動きを止める。 首をゆっくりと巡らし……唐突に駆けだした。 その先は、”異音”と無数の炎を生みだした人影のあった場所。 しかし、たどり着いたそこには何もなかった。 巨体は再び首をめぐらす。 何度も何度もめぐらし、やがてその動きを止める。 しかしそこにはやはり。 燃え尽きた木々のなれの果てとまだくすぶる煙のみ。 動くものは、何もない。 巨体は、夜空を仰いだ。 降るような星空と、その中に煌々と輝く月。 突如、頭部が割れた。 口のようなそこから漏れ出たのは、内部の深い闇と、そして。 咆哮。 その音量に、森の木々は揺れそれにまとわりつく炎も揺らぐ。 しかし、炎の中にその巨体のほか生き物はいない。 急速に広がる雨雲に隠されるまで、その叫びを聞くのは月のみだった。 |
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