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超鋼機装
ダークスティール


第十話 そしてようやくチョコを渡した




「反応がなくなった……?」

 街はずれにある古びた洋館。その最奥の一室。
 月明かりしか照らさぬそこが、強い光で照らされる。それは一瞬の閃光。
 一瞬の光に照らし出されてのは豪奢なドレスを纏う長い髪を持った女性。瀟洒なソファにゆるやかに腰掛ける女。この洋館に相応しい美しさと、古びた空気に相応しい空虚さを感じさせる女だった。
 そしてその前、閃光の源に立つのは背の低い影。ショートカットを揺らす、小柄な少女の影。

「無粋ね」
「見てきたよ」

 先ほどの閃光に対しての女の不満の声に応えず、少女は言う。

「どうだった?」
「倒されたよ」

 ひらひらと手を振りながら、軽く少女は言った。

「充分勝てると思ったんだけどね」
「全然ダメだったよ。完膚無きまでに、って感じ。バラバラのコナゴナ……いや、あれは”消えた”っていった方が近いかな?」
「そうね……『意力石』のカケラすら呼び戻せない……本当に消えてしまったのね」

 薄明かりの中、女の手が虚空をさまよう。何かを手繰るように、ゆらゆらとさまよう。

「やっぱり組織に立ち向かうのは、『反逆の機構ダークスティール』なのかな?」
「どうかしら? わたしようやくわかったのよ。強い強い魔物を生み出す方法。ヒュドラはほんのお試しみたいなもの。次も勝てないかも知れない。その次もたぶんダメね。でも、それで整う。準備は整う。あとは仕上げるだけ」
「勝てるの?」
「ええ。あれは結局人形に過ぎないわ。哀れな鉄の人形。騎士ではない。だから、勝てないの。私が創る……」

 女は立ち上がる。

「私のドラゴンには……!」

 女の声は古びた洋館に不吉に禍々しく響いた。





 ヒュドラと戦った次の朝。
 武上信也は通学路の中立っていた。道の途中という待ち合わせには中途半端な場所。しかし彼には関係なかった。どこだっていいからだ。ここを必ず通ると知っていたからだ。だからただ、待っていた。
 やがて、

「あ……」

 長い髪を揺らしす小柄な影。メガネの下にある真っ直ぐで澄んだ瞳。
 守屋あきの。

「おはよう」
「おはようございます……」

 感情のこもらない武上の挨拶に、ぺこりと頭を下げるあきの。どこかギクシャクとした感じだった。

「あれから大丈夫だったか? 鼻血はまた……」
「昨日のことはわすれてくださいっ!」

 昨日、ヒュドラを倒した後。ようやく落ち着き体力をある程度回復した武上とようやく落ち着き鼻血が止まったあきのは可能な限り後かたづけを行い帰宅した。
 あと片づけと言っても『ヴァニシング・ラッシュ』で”消費”した不法駐車の車は再生できなかったりした。威力は最強だが使い方には注意が必要な必殺技だった。……本当に、いろいろと。

「ほんとに、あんなに恥ずかしい思いをしたのは初めてですっ」
「そうなのか?」
「そうですよっ! すっごく恥ずかしかったんですからね。人が隠そうと思っているのに無理矢理見ようとするし……」

 冷静に見れば状況も告げずにその場を立ち去ってしまったあきのに非があると言えるだろう。あきの自身そのことは分かっている。実のところ、それもまた恥ずかしいと思ってしまうことの一因になっていたりする。

「わたし、怒ってるんです」

 言うと、くるりと武上に背を向けてしまう。
 武上は予想外のあきのの行動に戸惑うように……でもオロオロとはせずただ動きを止めた。ただ手を伸ばし静止したその様は明らかに動揺が感じられる。

「思うんですよ。わたしだけが恥ずかしいのは不公平だって……」

 武上は動けない。
 そんな彼の目前で、再びあきのがくるりと向き直る。
 メガネの下にはイタズラっぽい笑み。

「だから……武上先輩も恥ずかしくなって下さい」

 そう言って差し出したのはリボンでかわいく包装された紙の小箱。

「これは……?」
「チョコレートですよ」

 武上はそれを受け取る。そして不思議そうに眺めながら、考え込む。
 そんな武上の様子を見てあきのはそわそわと辺りを見回したりと落ち着かない。その頬はバラのように赤い。
 もどかしい沈黙の中、ようやく武上が口を開く。

「……このチョコレートを一気に食べて俺も鼻血を出せばいいのか……?」
「違いますっ! バレンタインチョコですっ! バーレーンーターイーンチョーコォッ!!」

 考え込んでいた割に自信なさげに的はずれなことを言う武上に、あきのは思わず全力で突っ込んでいた。
 呆然とする武上をみて、あきのは両手を振りながらまくし立てる。

「あ、あのこれは変な意味じゃなくて日頃の感謝というかなんというかいつもわたしばっかり食べてて女の子としてちょっと気になるって言うかっ! だからってわけでもないんですけど、これはあくまで義理チョコ……っていうと男の人って傷つくんでしたっけ? ええと、義理と言っても手作りだから……でででも本命なんてことはぜんぜんなくてえとえとそんなに手が込んでるわけじゃないしでも手抜きなんて全然ないくらい気合いは入れましたのでいわゆる一つの義務チョコみたいな感じだと思うんですけどどうですか?」
「……つまり、なんなんだ?」

 あくまでよくわかっていない様子の武上にあきのはため息一つ。

「つまり簡単に言うと……」
「ラブラブ?」

 突然の後ろからの声にあきのは飛び上がる。
 振りかえるとそこにいたのは奏恵だった。どこか得意げに構えるのはカメラ付きの携帯電話だ。

「あきのちゃんの一番かわいいとこ撮ってあげたよ〜」
「か、か、奏恵……!」
「ほら、見てみる?」

 そう言って見せる液晶の画面には……武上は写っていなかった。あきのも写っていない。ただ見えるのは……。

 『送信中』

 その文字だけだった。

「かわいいあきのちゃんの写真は、各所に向けて絶賛送信中〜」
「奏恵ーっ!!」

 ゆらゆらと、でもなぜか速い奏恵を追いかけてあきのが全力で疾走する。
 あとに取り残されたのは武上一人。その手の中には小さなでも丁寧に包装された、リボンのかわいい紙の小箱。
 自然に、顔が緩んだ。

「悪く……ないな」

 丁寧に小箱をカバンにおさめると、歩き出す。
 今までは一人で歩いていた。でも今は歩く先にはあきのがいる。一緒に歩くことも出来る。それは武上にとって悪くない。ただ戦うだけだった彼にとってそれは新鮮で、とて尊いものに思えた。
 今、武上信也の顔に浮かぶのは、微笑。微苦笑と言えるかも知れない。滅多に見せない、彼の微笑みだった。





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