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超鋼機装
ダークスティール 第三話 二人は語り合い | 少しだけ空気が暖かくゆるみ、でも冷たい風にすぐに冬であることを痛感させられる。 普段はその場を占めるのは凍てついた空気か、あるいは部活動の掛け声や地面を踏み鳴らし走る音。今はそれに加えてどこかけだるい楽しげな空気と明るい話し声があった。 放課後。下校する生徒達。 その中にやや俯き加減に長い黒髪を揺らし、早足で歩く一人の少女がいる。 風に揺れる黒髪が美しい。時折その姿が他の生徒に隠れがちなのは、その背の低さのためだ。 「はあっ……」 物憂げに、ため息を漏らす。白い息は冬の凍てついた空気の中、あっという間に霧散する。 そのため息の消え去った向こう。校門の脇。 一人の男子生徒が立っていた。短く切りそろえた髪。切れ長の鋭い瞳。身に纏う、どこか隙のない空気。 例えるならば、研ぎ澄まされた日本刀。 「本当にちゃんと待っていてくれてるんですね……!」 男子生徒――武上信也を見て、どこか不満気に守屋あきのはつぶやいた。 「あきのちゃん、ごーっ、だよ〜」 「!?」 おどろいて振り向けば、そこには奏恵の気の抜けた笑みがあった。 あきのの顔が疲れを見せる。 1月末。バレンタインの準備期間とも言えるこの時期、14日を楽しみにする者も「気にならない」とうそぶく者も、平等に男の子と女の子の関係には敏感になる。 そんな中、『登校時間に腕をつかまれ何かを言われる』などという事件は、この上ない話のタネとなった。 ウワサは止まるところを知らず……というか完全に一人歩きして面白おかしく脚色された。あきのにとってなにより厄介なのがそれが半ば以上「事実である」ということにされてしまっていることである。 奏恵の影の努力もの賜物だったりもする。 おかげであきのは一日中からかわれたのだ。 逃げることを試みたが、授業中に回ってくるメモや授業間の休み時間の質問攻めは容易にかわせるものではなかった。いいかげん、あきのは辟易としていたのだ。 「十年来思い続けた恋が実るなんて、ロマンチックだよね〜」 あきのの憂鬱をよそに……というか楽しむかのように、うっとりと奏恵が言う。 その内容は今日一日で出来上がったでたらめな「ウワサ」の一節。それが、あきのの眉をぴくりと震わせる。 「そこまで事実からねじ曲がりましたか……」 うんざりと答えるあきのが目に入らないように……と言うより、そのあきのを楽しむように奏恵はしゃべり続ける。 「朝、パンをくわえてあわてて登校して激突したのが初めての出会い。雨の日濡れた捨て猫を助ける所を見て胸キュン。夕方の土手で足をくじいてをおんぶで病院まで運んでもらってもうお互いの気持ちにウソがつけなくなったんだってね〜」 「よくもそこまで……」 「出会いから告白までを記した自伝もベストセラー入りだってね〜」 「あのですね……」 「でも、ね」 言葉を切り、奏恵はぴっ、と立てた人差し指とまっすぐな視線をあきのに向ける。 そのひどく真剣な様に圧倒され、あきのは押し黙る。 充分に間をおいて、奏恵は口を開く。 「王道すぎるんだから、せめてラストはもうちょっと捻った方が良かったと思うよ〜」 「なんですかそれはっ!?」 その大声に、周りを行き過ぎる生徒たちが一声にあきのに注視する。 無数の視線に晒され、あきのは赤面して俯く。その視線の中には信也のものも含まれる。そのことを意識すると殊更恥ずかしく思えた。 「あきのちゃんかわいい〜」 「いい加減にして下さいっ……!」 「ほっほっほっ、ういヤツじゃ〜」 おどける奏恵に、あきのは鞄を振る。 しかし、そのノンビリした雰囲気そのままにふわりと奏恵はバックステップ。鞄はむなしく空を切る。その様はまるで風に舞うひとひらの羽のよう。 「なんでいつも当たらないんですかっ……!?」 「ふらふらふ〜」 訳の分からない言葉通りにゆらゆらと揺れる奏恵。 あきのは漠然と「のれんに腕押し」ということわざを思い出した。 なにをやっても無駄な気になり、ため息をつきながら振りかえると 「わあ!?」 目の前に信也がいた。 驚くあきのに対し、信也はわずかに目を見開いたのみ。 「昨日の話をしたいんだが……」 ゆらゆらと揺れる奏恵に一瞥。 「取り込み中か」 「どういう理解の仕方をしているんですか……!?」 またしても変な場になってしまった。 さきほどの大声から続く妙な状況に、下校する生徒達が怪訝そうに横目で見ながら通り過ぎている。いいかげん、この状況はあきのにとって好ましくなかった。はっきり言って「イヤ」だった。 「さ、さあ行きましょう武上……先輩?」 呼び方を確かめるように問いかけるあきのに、 「わかった、あきの。人がいるのはまずい。二人きりになれる場所に移動しよう」 おお、と歓声が上がる。 名前呼び捨てにくわえて「二人きり」というキーワードはインパクトがあった。過剰に反応するまわりを見て武上は呟く。 「ここは騒がしすぎる……」 「い、いきなりっ……いきなり呼び捨てですかっ!?」 「問題があるのか?」 その質問にあきのは一瞬考えてしまう。 武上信也はあきのより一年上。先輩だ。だから呼び捨てそのものをすることは問題ない。しかし、名字はともかく下の名前というのはいくらなんでもいきなりすぎるのではないか。 そんなことを考えていると、武上が先に口を開く。 「守屋あきの……君の名はそうだろう?」 「ええ、そうですが……」 「なら問題ないな。あきの、行こう」 そう言って武上はあきのの手を取ると歩き出す。 武上の動きは乱暴なものではない。しかし、力強い。あきのは抵抗することも出来ずそのまま引きずられるようにつれられてしまう。 またしてもどよめきが場を包む。何しろバレンタインデーに近い時期。こんな状況は注目の的だ。ましてや今日は一日注目を浴びていたのだ。 振り向くと、ヤケにさわやかな笑顔と「わたしは応援してるよ〜」という目を向けて、「ぐっ!」と力強く親指を立てている奏恵が視界に入った。 ……ああ、なんかもうどうでもいいです…… あきのはあきらめるように脱力。そんなあきのを、信也は周囲の状況など目に入らないかのように引きずっていった。 ・ ・ ・ そうしてあきのが連れてこられたのは、川にかけられた鉄橋の下。 土手の下にあるそこは、あまり人が来ない。時折電車が通ると、大音量の金属音が包む。橋桁の脇にはスクラップが積み上げられ、それが殊更この近くには人があまり来ないことを証明していた。 確かにあまり人に聞かれたくない話をするのならうってつけの場所だろう。 ……特に常識を外れた話ならなおさらです…… あきのはまわりを見回しながらそんなことを思う。 さっきはなにやら変な雰囲気になっってしまったが、これから行われる話は間違いなく昨日の出来事であるはずだった。 「さて、ここならいいだろう、あきの」 「あくまで呼び捨てなんですね。……そっちが呼び捨てするならこっちも名前を呼び捨てにしますよ?」 ムッとした目で見上げてくるあきのに対し、 「別にかまわないが」 武上は全くの平静。それがあきののカンにさわる。 「信ちゃん、とか呼びますよ」 「そうか」 「信くんとかどうですか? なんか子供っぽくって恥ずかしくていい感じです」 「そうだな」 「……じゃあ、シンプルに”信也”」 「それでかまわないが」 どうにか恥ずかしがらせようと努力するあきのだったが、武上はどう呼ばれようとまったく動じないようだった。 逆にあきのは呼び名をかえるたびに赤くなる。 親戚や小学校に上がる前をのぞけば、あきのにとって男の子の下の名前を呼ぶのは初めての経験だった。漠然と、「下の名前を呼ぶのは恋人になった人」などと考えていた。だから、こうしたことはとても恥ずかしい。 「……信也」 「なんだ?」 「信也っ」 「だから、なんだ」 真っ赤になって自分の名を呼ぶあきのを不思議そうに見つめながら、武上はごく普通に答える。 ようやく独り相撲にしかなってないことに気づき、あきのはため息一つ。 「……もういいです。とりあえずあなたのことは”武上先輩”って呼びますね」 あきのはその呼び方でひとまず落ち着くこととした。 「”武上先輩”……いろいろ言いたいことはあるのですけれど、まずはお礼を言うべきなんでしょうか?」 「礼?」 「昨日、気絶した私を運んでくださったんでしょう?」 「運んだ……というのは正確ではない。確かに肩を貸したが、君は自分の足で帰宅した」 記憶と合致せず首を捻るあきのに、武上は言葉を続ける。 「ややぼんやりした様子だったが、自分の足で歩いた。そうでなくては俺に君の家が判るはずがない」 確かにその通りかも知れないが、あきのにはまったく覚えがなかった。 武上に嘘を言っている様子はない。また、その必要もないように思えた。しかし自分の記憶に無い事実がいくら並べられたところで実感が湧かない。 「そして、家の前まで着くと急に俺の手を振り解き、走って家の中へ入っていった」 「わたし、そのとき何か言っていましたか?」 「ただ……”ニクジャガジャガーッ”と」 「え?」 「血走った目で、その単語をぶつぶつ繰り返して素早い動きで家の中に入った。すこし心配だったが身体的には問題ないようだった。それに夜いきなり家に上がりこむのもためらわれた。そのときはそれで場をあとにしたのだが……」 「やはり心配だったからああして朝、通学路で待っていた」、と信也の言葉は続くのだが、あきのの耳にはほとんど入ってこなかった。 まさか記憶にない「肉じゃがを平らげた」ことについてこんなところで裏付けがとれてしまうとは。 あまりのことに、あきのは頭を抱える。 そんなあきのを不思議そうに武上は見つめる。 「”ニクジャガジャガーッ”とは、なんのことなんだ?」 「え?」 「そのキーワードにはなにか重要な意味が?」 問いつめられ、言葉に詰まる。 半分意識を失った状態――それも、その理由が空腹――で運ばれると言うだけでも恥ずかしいと言うのに、そんなことまで。一旦は元に戻ったあきのの顔も、再び紅潮する。 ……こんなことを話しに来たわけではないはずですっ……! そうだ。あきのは右手をみる。未だそこにある、異物。 それが話題の焦点であるべき筈だ。そうでないと困る。 だからあきのは強引に話題を変える。 「そ、そんなことはどうでもいいんですっ! それより話すべき事があるでしょうっ!? ……これはいったいなんなんですっ!?」 そでをまくり腕時計を外し、右手首内側――そこにおさまった石を掲げる。 緑色の石。 それは……。 「意力結晶石”ウィルストーン”だ」 「ウィル……ストーン?」 武上の答えに、あきのが疑問の声を上げる。それに答えるかのように、武上の額が鈍く輝く。緑の、光。 そして現れたのは細長い楕円の緑石。それは昨夜、黒い鬼の額にはまっていた、一部が欠けた緑の石だった。 「俺の額にある石。そして、君の手首にある石。それは、”人の意思を力に変え、あらゆる望みを叶える石”……”ウィルストーン”だ」 「あらゆる望みを……叶える?」 うさんくさそうに呟くあきのに、武上はまるでごく当然といった感じに頷く。 「夢みたいな石ですね。だったら、例えば『世界一のお金持ちになりたい』と願えばこの石がかなえてくれるというのですか?」 「試してみるといい」 武上のあっさりとした回答が気に入らず、あきのはムキになってイメージする。世界一のお金持ち。とりえあず上等なブランドものの服を着て、アクセサリーもいっぱいつけて……車はやっぱりロールスロイス。 月並みな発想ばかりでまとまらない。お金持ちなんだからもっとストレートに金、金、金……金っ! 強くお金をイメージすると、目の前に札束の山が現れた。背の低いあきのの頭を越える高さで積み上げられた、札束の山が。 「えっ!?」 驚き手を伸ばす。しかし、触れることが出来ない。手がすり抜ける。そのことに反応する間もなく、まるで霞のように札束の山は消え去ってしまった。 後に残ったのは、手を伸ばしてかたまるどこか間抜けなあきのの姿。 メガネのズレを直しつつ、あきのは不満げに武上を睨む。 「『あらゆる望みを叶える』んじゃなかったんですか?」 「ああ、そうだ。……だが、望みを叶えるには強い”意志の力”と、現実に足る”理由”が必要だ」 「意志の力と理由……?」 「君はこう思わなかったか? 目の前に突然札束の山が現れて、『なんて現実味がないんだ』、と」 確かにあきのはそう考えた。そもそも「あらゆる望みを叶える」というなんてあまりにもうさんくさい。そんな都合のいいものがあるはずがない。そう考えてしまっていた。 だからこそ、あきのは普通なら 『現実的だが、だからこそ叶いそうもない願い』をイメージしたのだ。それが叶えば、信じがたい武上の言葉を証明することが出来たはずだった。 だから本当に札束があらわれたとき『こんな夢みたいな、現実味がないことが本当にあるなんて』と思ったのだ。 「望みや願いを現実にするには、人間の思考は疑い深すぎる。だから『自分がこれなら実際にあり得る』……こう、確信できるなにかが必要だ」 話しながら、武上は橋桁の脇……積み上げられたスクラップへと歩む。 そして、うち捨てられた自転車の一つに右手をかけた。 「俺は『力を得る』という望みを叶えるために、鉄を必要とする。鉄を吸収し、自分の身体を強化する。そのことによって強い力を出すことが出来る」 額の緑の石が輝く。 瞬間、どろりと自転車が液状化する。形を失い、溶けてゆく。そして、流れてゆく。武上の手に吸い込まれるように流れ、そしてその手は吸い込んだ分だけ黒く太くなってゆく。 しかし、融けて消え去るのは鉄の部分のみだった。タイヤのゴムやブレーキのチューブ、そしてプラスチック製のグリップやサドル。それらはそのまま地に落ち、湿った音を響かせる。 「多分、小さい頃まわりで工事が多かったせいだろう。シャベルカーやクレーン車の力強さが印象に残っている。だから、俺にとって鉄は力の象徴……」 武上の額のウィルストーンが輝きを増す。 「機構装身……!」 言葉と共に、手が、形を作る。 ただまとわりついていただけの鉄は装甲と化す。手を覆う、黒い装甲。あきのはそれに見覚えがある。鎧のような黒く力強い装甲。どこか生物的なフォルム。それは、あきのが昨日見た”黒い鬼”の手に他ならなかった。 武上は確認するように手を握り締め、開く。 そして、拳を形作ると、地に向けて構える。 「なにを……?」 「力を見せる」 ぶつ切りの回答を口にすると、武上は見上げる。そこには電車が川を渡るための橋がある。 もともとそれほど本数の少ない線ではない。ややあって、規則正しく揺れる金属音が近づいてくる。電車が来る。 それに合わせるように武上は鉄の拳を地に叩きつけた。 地を震わす打撃音は、電車の走る音にうち消された。 あきのは耳ではなく腹に響く衝撃でその音の重さと大きさを知った。 そして目の前に出来上がったのは、半径50センチ、深さは10センチほどのすり鉢状の陥没。 普通の人間にはとても有り得ない力だった。 武上はその結果を確認すると、立ち上がりあきのに向き直る。 「次はこちらから聞きたい。君は昨日、俺を助けてくれた。君から力を送られた実感があった。……君の力を教えて欲しい」 「……それを聞かれると思って準備してきました」 言うと、あきのは鞄の中をごそごそと探り出す。ほどなくして取り出されたのは、 「やきそば……パン?」 そうだった。ビニールの袋に包まれた、学食で見慣れたやきそばパンだった。 やや唖然となる武上を前に、あきのは慣れた手つきで開封すると、やきそばパンを一口。 一口で、全部食べた。 「……え?」 今まで動じなかった武上が、始めてハッキリと動揺する。見えなかった。今何がおきたか、正確にわからなかった。 あきのの口は小さい。最大まで広げてもやきそばパンの直径に満たないはずだ。頭の大きさからして口の奥行きはやきそばパンの長さより短いはずだ。 だが、一口。一口でやきそばパンは消えた。 「それが……君の”力”なのか?」 「女の子が食べるのをジロジロ見るのは失礼ですよ?」 答になっていない答を返しながら、あきのは右手の”ウィルストーン”に意識を集中する。 石は緑に輝く。 そして、繋がった。 あの時と同じ。武上の身体を、その構造を”認識”することができる。 右手を形成する機構。自転車を吸収することで組み上げられた、鉄の構造。 そして、それ以外にも全身の骨が金属化されているのが分かった。 ……”常備”しているというわけですか…… おそらく、いつでも金属で”武装”できるよう、外見からはそれと悟られない程度に常に鉄を吸収しているのだろう。 今右手を地面に叩きつけた。もし強化したのが右手だけなら身体が耐えきれなかったかも知れない。 武上は、常に戦う体勢をとっている。 そのことを理解しながら、より構造に意識を向ける。再現するのは昨夜のイメージ。 だが、足りない。 正確にイメージできている。精密さもあきのにとって充分に”現実になりうるもの”だ。だが、力が足りない。イメージの力が足りない。だから、あの時心に浮かんだ言葉を口に出す。 「機構……構築……!」 言葉に出すと、力が明確化した。明確化した力のイメージを、手首の”ウィルストーン”を通して武上に送る。緑の石が、その輝きを増す。 同時に、今までおなかにおさまっていたものの感触が消える。やきそばパンを食べたという実感が失せる。 そして、武上の右手が変わった。 三本だったシリンダーは八本まで増加。打撃強化用のスプリングを追加。足りない鉄は無駄な装甲と構造を形成していた鉄と、全身の金属化されている骨から補う。それでも強度は充分なはずだった。 どこか生物的なデザインだった武上の右手が、精密で強靱で、より機能的な鉄の腕と化す。 「これは……」 「これが私の力……らしいです。あなたの構造を理解し、再構築し強化する。そしてあなたに”力”を送る。その源は……」 手に残る、やきそばパンの入っていたビニール袋をひらひらと振る。 「食べ物、です」 「食べ物……」 呆然と、武上が呟く。始めてみせるその驚きの表情に、あきのは少し満足した。 調子に乗って言葉を続ける。右手の人差し指を立て、中指を第二関節を曲げて立て、得意げに言う。 「昨日あなたを救ったのは、およそ肉まん1.5個分の”力”でした」 「肉まん……1.5個……」 空腹で倒れたことからすると、昨晩はそれ以上の力を消費したのだろう。しかし、それは慣れていなかったためとあきのは実感していた。実際に今やきそばパンを一個を食して機構を構築したが、まだ余裕があった。 そして、再び電車の来る音が聞こえてくる。 武上は地面に向けて振りかぶる。 「拳撃機構……」 武上が、呟く。 あきのには理解できた。力を明確にする言葉。それが、”ウィルストーン”の力を『現実化』するのには有効なのだ。言葉は形のないことを明確にすることが出来る。それによって失われるものもあるかもしれないが、おそらくそれが『現実になる』と言うこと。 「インパクト・ナックル!」 叫び、叩きつける。 今度の衝撃音は電車の走行音に負けないほど大きなものだった。 大きく地が揺れ、あきのはたたらを踏む。ちょっとした地震のようだった。 そして生まれたのは……陥没、と言うよりクレーターと言った方が近い。 直径は軽く一メートルを超える。深さは肘まで埋まる程度。だが、それはそこまでしか拳が届かなかったからだ。その威力なら、おそらく地面を覆う土では抵抗にならず何処までも突き進めてしまうのではないか……そう思わせる威力だった。 「あきの……」 ゆっくりと武上が立ち上がる。 「俺と、戦ってくれないか?」 真剣な瞳で、あきのに問う。 それは、あきのにとって予想された質問だった。 しかし困った質問でもあった。なぜなら、あきのはその質問に対する答をまだ決めていなったからだ。 |